このところ、世界的に物価が上昇しつつあります。米国では、物価上昇率が5%台となり、欧州では、風力不足による風力発電不調等による天然ガスの高騰(年初の約6倍)があり、日本でも原油の上昇と円安でガソリン価格が急上昇し、1リットル約170円台に突入しています。 弊社の事業との関係で言えば、この秋口から壁紙等各種の建材や水回り設備などの値上げ要請が散見されます。
この物価上昇は、コロナ禍に伴う諸規制が緩和され、需要が急拡大する一方、供給する側は、未だコロナ禍の影響が残り、労働者不足による物流の混乱や半導体の不足などの供給面の制約があるため、一時的に物不足となり、諸物価が上昇したのが主因と言われています。
しかし、もっと本質的な物価上昇要因があるとも言われています。それは、温暖化対策が現実的な政策として世界中で本格的に実行されつつあることです。
近時、IPCC(国連の気候変動の政府間パネル)は、「地球温暖化は人間が起因であることは最早疑いようのない事実」であると宣言し、脱CO2は、国際的な最重要課題となっています。
更に、ESG投資(環境・社会・企業統治を重視した投資の考え方)が一段と盛んとなり、世界の投資家(事業にお金を貸す人々)たちは、一斉に「CO2」を発生する事業への新規投資を止めるばかりでなく、投資資金を引き上げる行動も行い始めています。
具体的には、「石炭や石油に関する事業」には資金を投資しないことが常識となり、日本のメガバンクも新興国での石炭火力発電事業への融資を中止しました。
一般に、油田・炭田の開発や石炭火力発電所の新設には、10数年かかると言われているので、今、資金が投資されないと言うことは、10数年後には、新しい石油・石炭の採掘が激減し、且つ石油・石炭火力発電所等の発電量は減少することになりますが、その時迄にそれを補う「再生可能エネルギー」が開発され実装されないと、エネルギー不足が発生することになると危惧され始めています。
日本も、2050年にカーボンゼロを国際公約として宣言し、その途中の2030年には、2010年比▲46%減を決定しました。そして、新エネルギー基本計画(2030年)では、再生可能エネルギーを約38%と設定しましたが、太陽光発電は、既にそれに適した平地の場所が少なく、海上風力も、環境アセスメントや漁業権調整などの規制クリアーも考慮すれば、最短で8年以上かかるとされるので、今すぐ始めないと2030年には間に合わない計算になります(国際公約を果たせなかったら、国際的な批判を受ける上に、排出権購入などで国富が数十兆円も国外流出することになる?)。
この様に世界中で各国が性急な脱炭素に向け走り出したので、エネルギー専門家によれば「世界は今、クリーンエネルギーへの移行期における最初の大きなエネルギー危機に直面しており、こうした危機は今後も繰り返される。エネルギー改革の実現には数十年かかるとみられ、その間、世界は引き続き化石燃料への依存が続くことになりそうだ」と見通していますが、この考え方は、マーケット関係者へも共有されつつあります。
地球が何億年も熟成してきた?石炭・石油という鉱物を直接燃焼することでエネルギーを取り出して来た方法から、連続的に発生・消失を繰り返しそのままでは利用困難で貯留が難しい太陽光・風力・潮力などの再生可能エネルギーを新技術で別のエネルギーに転換し利用する方法への移行という歴史的なエネルギー革命が今、正に進行中です。
約50年近く前のオイルショックは、石油価格がいきなり4倍となり狂乱物価の引き金となりましたが、今回の革命がスムーズに進まなければ、エネルギー絶対量の不足を招くものだけに、そのインパクトは、より重くなると思われます。
何か解決策はあるかと問われると、この問題は、巨大過ぎて、一企業に何かできるというものではないですが、近い将来の経営環境課題の一つとして認識して置くべくものと考えます。
因みに、未曽有の危機と言われたコロナ禍でも、驚異的な短期間でワクチンが開発されたことなどを鑑みると、窮地に陥ると何かいい知恵が出てくるのではと期待できます。
要は、コリン・パウエル米元国務長官(新光ライブラリーに蔵書あり)の名言「何事も思っているほど悪くない。朝になれば状況は良くなっている」という言葉を噛みしめたいと思います。