主要先進国で、もう何年も「金利のない世界」が続いています。
そもそも、超金融緩和策が採用されたきっかけは、2008年の「リーマンショック」であり、大雑把に言えば、米国の中央銀行が実施した異例の緩和策に各国の中央銀行が同調し、日本ではデフレで既に低金利状態でしたが、更に2013年に日銀の黒田総裁が「2年で2%の物価上昇」を実現すると宣言して以来マイナス金利政策なども追加し、「金利のない世界」に突入、今に至っています。
この金融緩和策は、金利をゼロ近辺にし、且つマネー量をじゃぶじゃぶの状態にすることで、世の中にお金を流通し易くさせ、投資や消費を活発化させ、適度のインフレを起こし、以て経済規模を拡大基調に乗せるのが主目的です。本来は、危機的な状況にのみ適用すべき異例の政策であるため、長期間続けるとその副作用が大きくなるとの批判も多くあります(きつい薬を飲み続けると効き目が低下し、且つ副作用も強い)。
その一つは、ゼロ金利で広義の金融機能(金利の効果)が損なわれるとの批判です。
例えば、お金を借りる方の立場でいえば、ゼロ金利で借り入れできるということは、極言すれば、ほぼ元本を返せる事業(会社)であれば、持続可能ということであり、元本÷返済期間≦返済原資(事業収入-諸経費・税金=利益+減価償却)であり、利益がわずかでもその事業が成り立つことになり、収益性の低い事業でも世の中に存在することになります。所謂「ゾンビ企業」を存続させ、社会全体では非効率となると批判されている訳です(お荷物企業が多いとその国の生産性は下がり経済成長率は低下する)。
一方、お金を運用する方の立場で言えば、金利が低すぎて何年運用(預金)していても資産は全く増えず、むしろインフレが進行すれば、資産が目減りして行くことになります。
嘗て、日本に金利のあった時代(1995年頃は1~2%以上)、「72の法則」というものがお金の運用の世界では重宝がられました。
それは、金利×期間(年)=72という数式を満たす金利と運用期間があれば、元本が倍になるという法則です。例えば、2%で36年間運用すると(複利)2×36≒72となるので、定期預金2%で入社時から36年間複利運用すれば退職時には、元本はほぼ倍になるという意味です。
ところが、今は金利のない世界なので、この法則を使って計算すると、定期金利は、現在0.002%なので、72÷0.002%=360万年と気が遠くなる年数を預金しなければならない。つまり安全確実な運用ができないということが、「金利のない世界」の最大の問題の一つであると思われます(但し今はデフレ?なので目減りしない)。
更に、「金利のない世界」では、預金するより、高い投資リスクを取っても株式や不動産で儲けようというインセンティブを抱かせ、ゼロ金利マネーがマーケットに大量に流入し、株価・地価などが上昇、リスクが取れる富裕層が結果的に益々と栄え、貧富の差を助長していると批判されています(特に、米国では低所得者は、不動産の上昇に伴う家賃の高騰で住む場所さえ奪われるという)。
この様に「金利がない世界」では、お金を借りる場合も運用する場合も深刻な問題を惹起しています。しかし、仮に、「金利のない世界」から脱却し、世界の中央銀行が目標としているインフレ率2%の経済での「2~3%の適度な金利?がある世界」へ移行すれば、ゾンビ企業は倒産し、失業率が上昇するか株価が暴落する?などのリスクもあり、二進も三進も行かない状態です。
従って、これからも「金利のない世界」は、継続するはずですが、どこかで臨界点の様なものがあって、それに到達すると、経済に大打撃を与えるとの説も有力です。
一体いつになったら、金融市場は、金利機能が復活した正常な世界に戻れるのか、中央銀行でさえ全く見通しがつかないものと思われます。
まるで闇夜の国に迷い込んでしまったかの様です。