東京ヤクルトスワローズの村上宗隆選手が、50年以上に亘り球界の不滅の記録とされていた王貞治選手の年間55本塁打を超える今季56号を、レギュラーシーズン最終戦の最終打席で放ちました(なお、NPB記録はバレンティン選手の60本)。
この最終戦で史上最年少での三冠王もまた確定させた弱冠22歳の偉業に、一プロ野球ファンとしては嬉しくもあり、また60打席ぶりの、しかも最後の一打席で達成したという事に安堵もしています。
この大記録達成は、勿論本人の努力の賜物ではありますが、同時にそれを支える周囲の存在があってこそ、と強く感じます。
今季もスワローズは、個々の選手を活かした的確な采配により、連覇を成し遂げましたが、見ていてもチームの連帯感は強く、ベンチの雰囲気も大変良いものがあります。
それをもたらす要因の一つが、選手たちが信頼を置くリーダーの存在です。
実は今回の偉業のポイントは、村上選手が前日試合に出ず、休養したことにあると思っています。高津監督は「本人と、とことん話し合って決めた」と説明しましたが、普通ならば一番で起用したりして、一打席でも多く機会を与えようとするでしょう。
ただそうすれば、本人の「打ちたい、打ちたい」というはやる感情に、ベンチまでが同調して前のめりになって更に重圧が掛かり、冷静な心を取戻せないまま、プレーを続けてしまったのではないかと考えます。
本来ならば一回でも多くのチャンスを、と考えてしまうのに対し、敢えて休みを取らせて客観的な眼で試合を見られるようにして、平常心を取戻す機会を作ったという決断ですが、もし失敗すれば色々な非難も湧き起こったことでしょう。
監督が本人の為に、そのリスクと責任を躊躇わずに取る覚悟を持った存在であるということは、村上選手にとって大変幸運な事であったと思います。またそういうリーダーの下での一致団結したチームであればこそ、連覇を成し遂げる事が出来たのであろうと思います。
プロ野球の監督は企業経営者の仕事とは大きく違いますが、勇気を持って最終戦の前日を休養としたその英断に対して改めて敬意を表すると共に、人の力を引出し活かす為の、また大いなる勉強ともなりました。