今、日経の朝刊・夕刊で中国を舞台にした2つの歴史小説が掲載されています。
2つの小説を意図的に、同時掲載しているかどうかは不明ですが、何れも歴史上の実在の人物をモチーフした本格的な小説です。
ひとつは、安部龍太郎氏の「ふりさけ見れば」であり、主人公は、奈良時代の官吏にして中国で皇帝側近の高官にまでなった阿部仲麻呂と助演として吉備真備の2名が日中を舞台に交互に登場する形式で物語が展開する。題名の「ふりさけみれば」は、百人一首に掲載されている阿部仲麻呂の「天の原、ふりさけみれば~」から引用されている。
両名とも学生時代の歴史の授業でその名前を憶えている程度で、業績や人となりなどは全くイメージ出来なかったが、この小説のお陰で波乱万丈の人生の一端を知ることができました。
小説の中では、遣唐使として派遣された「阿部仲麻呂」は、当時の大帝国であった中国に日本を独立国として認めさせるためには、日本独自の正史編纂が必要であるが、中国の正史との整合性をとるため、(日本国のスパイに任じられ)、正史秘史に自由にアクセスできる地位である秘書省の高官を目指して、友人や恩人を裏切りながら忍従を重ねて出世をめざすというミステリー要素のある読み応えのある内容となっている。時の玄宗皇帝や楊貴妃、安禄山その他の数々の人物が登場する多彩なストーリーの中で、交じり合いながら展開していく。
もう一つは、中国歴史小説の第一人者と言われる宮城谷昌光氏の「諸葛亮」で三国志で有名な諸葛亮孔明の幼少期からの物語であり、お馴染みの三国志の世界が描かれているが、エンターテイメント性の高い「三国志演義」をベースとしたものではないらしく、有名な赤壁の戦いでも諸葛亮の活躍は、比較的地味に書かれており、史実?に寄り添った展開を重視している様に読み取れる。
「三国志」と言えば、コーエイのゲームソフト「三國志」が有名でゲーマーの人達の方が登場人物やエピソードに詳しいが、私の拙い知識で判断すると、現実感のある生の孔明像を描き出そうとしているのではないか思い、大変興味深く読んでいます。
中国物と言えば、ちょっと前のマンガ・アニメ作品である「キングダム」も良くできた作品です。 これは、既に映画化されているが、秦の始皇帝「政」とその将軍である「信」という人物の少年時代からの出世物語である。これも歴史的な背景を上手に取り混ぜながら、一大歴史スペクタクルに仕上がっている優れた作品です。
何れの作品も、昔の中国の世界を描いているが、その当時から現代に至るまで熾烈な権力争いと生き残りの競争が繰り返され、中国の歴史の重みと中国人の多様な人生経験に培われた処世訓や戦略などを感じ取れる。この様な過酷な生存競争を繰り返してきた忍耐力と長期的な戦略に裏打ちされた中国の国としてのすごみを感じます。
現在の共産党の中国もその内部では同じような苛烈な競争が繰り広げられ、その過程で強靭な権力者や権力機構が構築され、国の知見?が蓄積されていることを鑑みれば、(言論や人権を抑圧する強権主義には到底賛同できないが)現代中国の強固な国家力を感じざるを得ません。
米中対立はいつまで続くか、どのような経過をたどるのか、いわんやその結果は全く不透明ですが、国内外に強権(覇権)主義的でなければ、あれだけの激しい競争環境の下では、国としての統一性は保てないという事情もあるのかも知れません。
権威主義中国は、暫く長く続くものと思われます。
今後も中国ものには興味が尽きない。